2022年10月15日(土)から10月30日(日)まで寺田倉庫E-HALLにて開催した展覧会「Unlearning the Visuals」のために制作したキービジュアルを紹介します。
本キービジュアルは、展覧会のテーマとなった「unlearn(まなびほぐし)」を表現するものとして、クリエイティブディレクター・アートディレクターを務めた高岸寛、CGデザイナーの曽根宏暢、プログラマーの阿部啓太との協働によって制作しました。
詳細は、以下をご覧ください。
論考 / 高橋裕行 (インディペンデントキュレーター)
展覧会のテーマは「un-learn(まなびほぐし)」である。一度身につけた知識、スキル、経験を捨て、新たな形に再編成する。しかし、un-learnというのは実はいうほど簡単なことではない。例えば、いったん自転車に乗ることを覚えた人がそれをリセットして忘れることはほとんど不可能といってもいい。それが仕事の得意技であればなおさらである。しかし、激しく変化する世の中にあって、個人においても組織においても、一番の「強み」がそのまま「弱み」になってしまうことは珍しくない。たとえば、日本の携帯電話機が高度な進化を遂げながらもスマートフォンを生み出すことが出来なかったように。ひとつの市場に最適化していくと、迫りくる競合の姿が見えなくなり、変化を先取りすることができなくなるのである。そのような事情は枚挙に暇がなく、一説によると、企業の寿命は30年とも言われる。それほど変化し続けることは難しいのだ。
さて、そのun-learnというテーマを視覚的に表現するのがこのKey Visualである。さっと地面に降り立つような姿勢の人物像が極彩色に彩られ、風になびく衣装は、右側にいくほどほぐれていっている。崩れて分解されているようにも見えるし、いままさに合成され、編まれつつあるようにも見える。
このKey Visualはデザイナーと開発チームのプログラマの協働によって生まれたのだという。AIの機械学習によって生成されたランダムな色彩の模様を、バレエダンサーのCGモデルに貼り付けて作っている。最終的にはデザイナーが手動でカラーバランスを調整し、Key Visualにふさわしいものに仕上げたという。WOWというと、ロゴに象徴されるように、モノトーンでソリッドなイメージがあるが、今回はビビットでダイナミックな色彩が特徴だ。このKey Visualはウェブやフライヤーに使われるだけでなく、会場のサイン計画にも展開していく可能性が含まれているという。
本作において、デザイナーと人工知能の分担を比率で表すと7:3だという。7がデザイナーで3が人工知能だ。近い将来、このような人工知能と人間のコラボレーションはより一般化するのではないかと思われる。実際、2022年は画像生成AIが世界的に流行した年であった。世界中のあらゆる画像データを学習した人工知能は、人間の様々なオーダーに応じ、いかにも「それらしい」画像を生成してみせる。かつて19世紀に写真の誕生が写実という画家の牙城を崩し、印象派を生み出し、20世紀の抽象表現や新たな写真表現が生まれていったように、今後、人工知能の進展がクリエイティブの世界に大きな地殻変動をもたらすことは間違いない。このKey Visualはそんな予感を感じさせると共に、WOWという会社が「イノベーションのジレンマ」を超えて変化し続けるという決意を表明しているように思える。