Project > Works

モーショングラフィックス座談会Vol. 3

Round-table

参加メンバー:鹿野護/工藤薫​​/中路琢磨/森脇大輔/中間耕平/柴田大平/北畠遼/近藤樹
 

環世界

 

鹿野
今回は「世界」というキーワードが重要かな、と思っています。このプロジェクトの目的は映像を作ることだけれど、単にモーショングラフィックスを全天球にするということではないと思うんです。映像が持っている特性と、人間が認知する仕組みを裏側から考えながら作るほうが面白そうだし、そうしないと表層的な表現のチャレンジになってしまうのではないかと。その辺りは皆さん、どう思いますか?
 

工藤
メンバーから出たアイディアの中で、「自分の手をOculus Rift(オキュラスリフト)の中に入れたい」とか、「違うデバイスを使って、もう一歩踏み込んだ没入感を出したい」といった、表現として面白いものがたくさんありました。その辺りに取り組むと、さらに一歩進んだトライになるのかなと思います。
 

鹿野
なるほど。映像+アルファの部分ですよね。今回は映像を作るというよりも、世界を構築することがテーマになるのではないかという予感があるんです。なかなかよい言葉が見つからないのですが、たとえば「環世界」という言葉で表せないかなと。
 

一同
かんせかい… !?
 

鹿野
「環境世界」とも言われるらしいのですが、生物学で「環世界」という言葉があるんです。生物学者・ユクスキュルの著書『生物からみた世界』に「全ての動物は、それぞれ特有の知覚世界を持って生きている」と書かれています。要は「全ての動物は、違う世界を見ている」ということなんです。色や視覚、FPS(※1)が違う。そもそも、見えている形そのものだって違うかもしれない。そのくらい全然違う世界を見ているのなら、人間はたまたまこの世界を見ているだけだと捉えられるじゃないですか。例えば蝶には「紫外線」が見えているので、紫外線でしか見ることのできない花の中のパターンが見えている。花の形のピクトグラムが浮かんでくるような世界ですね。ユクスキュルは、「生物ごとにシャボン玉の様な環世界があり、それぞれの生物で全然違う世界がある」とも言っています。例えば、かたつむりって3FPSでしか世界を見ていないらしく…。
 

一同
ははは(笑)。低い!
 

中間
じゃあ、自分の中ではすごく早く動いているのかな。アイツ…(笑)。
 

鹿野
そうそう。だから彼らは、1秒間に4回以上振動している物体は、静止していると認識するらしいですね。かたつむりが移動してくる方向に、高速で振動する棒を立てると、止まっているものだと勘違いして乗ってきて、吹っ飛ばされるらしいとか。
 

一同
なるほど。おもしろい!
 

鹿野
なので、生きている世界がまったく違うんですよ。
 

中間
1秒間に4回って意外と少ない…(笑)。
 

鹿野
もうひとつ面白いなと思ったのが、犬が歩く時は犬が足を動かすけれど、ウニの場合は足がウニを動かしているらしいんですよ。足の方が主体になって動いている。こんな感覚、人間だと想像しにくいですよね。
 

一同
へー!
 

鹿野
こうした例は極端かもしれませんが、実は人間も同じゃないかと。それぞれみんな、微妙に違う世界を見て生きているかもしれませんよね。例えば、人間にとって普遍的だと思われている時間や空間も、性格や文化によって変わってくるものだと思っています。 生物ごとにも違うし、人間ごとにも違う。全天球型の映像は、視覚というものを通じて「どの世界を捉えているか」というのを再体験する可能性を持っていると思います。映像を作るというよりも、未知の世界を構築して、その世界を体験できることが映像プロジェクトの裏テーマとしてあったらいいですね。新しい世界を認知できるような映像表現の可能性を、頭の片隅に置いておきたいな、と。 興味のある分野の専門家をお呼びして、いつかこのメンバーでじっくりお話を聞いてみたいと思っているんですよ。そんなインタビューやフィールドワークなどの活動を、このプロジェクトの一環としてやっていきたいと思っています。今は水面下で、座談会やらディスカッションをやっているけれど、もっとアクティブな活動にしていきたいですね。映像を考えたり、絞り込んでいったりする時も、自分たちが学べて、面白がれるようなネタを上手く取り入れられるよう、進めていければいいなと思います。引続きよろしくお願いします。
 

次回は、WOWメンバーによる企画出し
 

※1 FPS…Frames Per Secondの略。1秒間に画像が何回書き換えられているのかを表した単位。数値が高いほど、動画がなめらかに動いているように見える。

(Vol. 4につづく)

<<Beyond Motion Graphics