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モーショングラフィックス座談会Vol. 1

Round-table

参加メンバー:鹿野護 / 工藤薫 / 中路琢磨 / 森脇大輔 / 中間耕平 / 柴田大平 / 北畠遼 / 近藤樹
 

技術と表現の関係

 

鹿野
ちょっと前置きを話しておきます。今、私たちは、WOWというチームで映像を作っていて、日々、様々な映像をデザインしていますよね。今日集まってもらったメンバーはフラットなグラフィックスから、質感重視の3DCGまで、とても幅広い表現力を持っている強者揃いですね(笑) そこで、皆さんも実感していると思いますが、技術と表現は密接に関係しているなと。特に20世紀前半の美術的表現の変化、たとえば印象派やキュビズム、ポップアートなど、技術の変化に大きな影響を受けている。特に面白いなと思うのが、1950年代中盤にポップアートと入れ替わるような形で、プログラミング言語が生まれているんです。それはすぐに表現に結びつかないんだけれど、MTVを始めとするミュージッククリップ全盛の陰で、脈々とメディアアートとして今に繋がっている。

WOWの表現はもともとCM向けのコンピューターグラフィックスが中心でした。しかしこの10年で大きく様変わりしました。今では、インタラクティブな表現を始めとして、インスタレーションやアプリ、UIのデザインも手がけている。最近の映像でいうと4Kや立体視なども手がけてきましたし、最近だとOculusやYoutube360などの全天球型の映像も実に面白いメディアではないでしょうか。 ちょっと前置きがながくなってしまいました。ようするに、WOWはここ数年でいろいろと表現の幅を広げてきたわけですが、ここらで一旦立ち止まって、表現と技術の関係性を振り返ってみるのはどうかと。新しい技術をしっかり捉えて、我々が目指すべき「次の表現」について語り合あうのはどうかと思うわけです。
 

お気に入りの映像をみんなで見てみよう

鹿野
今日の座談会は、みんなで映像を見ながら雑談をしようという会です。まあ気軽に、マニアックな視点で映像を語り合いましょう。一人ひとつずつの映像をセレクトしてもらっていると思いますので、早速始めましょうか。
 

中間
このメンバーだと、変なものは見せられないですねぇ(笑)。誰から行きます?
 

工藤
それでは、自分から行きます。懐かしいというか、人によってはかなり見慣れている作品なのですが。PSYOPが製作したコマーシャル映像です。

 


 

一同
おお、懐かしいですね。
 

工藤
パッと見た感じではフラットな表現なのに、カメラワークやアニメーションによって、深い奥行きが作り出されています。おそらく2Dではなくしっかり3DCGで作られているんですよね。短いながらストーリーもしっかりしていて、飽きずに最後まで見ていられる。最初に見たのは10年ぐらい前かもしれませんが、全然色褪せない。
 

鹿野
確かに色褪せないですねぇ。おそらくWOWのデザイナーの殆どが一度は見て、何らしかの影響を受けていると言ってもよい定番の映像とも言えます。ありがとうございました。
 


 

北畠
次は僕が選んだ映像を見てください。アナログデジタルというクリエイティブカンファレンスの2013年のオープニングです。breederというスタジオが作った映像です。全体的に絵の構図や、力強さ、緊張感など、素晴らしいと思います。

北畠
シルエットの上に単に映像を重ねているだけではなく、人体の動きに合わせて貼り付けられているかのように合成されているんです。
 

鹿野
本当だ。これはすごい。いいですね。
 

中間
かっこいい。どうやってトラッキングしているのかな。確かメイキング映像もありましたよね。
 

北畠
ありました。どうやらmochaをつかってトラッキングしているようですね。それと、素晴らしいモーショングラフィックスは音楽も非常に重要だと思うのですが、この映像はそうした音と映像のマッチングがとても良いんです。音楽の構成や映像とのリンクが素晴らしい作品ですね。かなり好きです。
 

中路
では次は自分の番ですかね。 勅使河原くんのhello worldという作品です。アルゴリズムからどんどん自動生成される映像なのですが、とにかくタイムラインに縛られずに、無限のパターンが作り出されていく点が好きなんです。
 


 

鹿野
Flashで作られているんでしたっけ?
 

中路
Flashだったと思います。反応拡散系の図案が次々と生まれては消えていく。見るというより眺めるような感覚、環境の一部を見ているような。そう、映像というよりも現象のような感じですよね。現象を生のまま表現して、その先を想像させてるような。
 

工藤
これ、どうやって作ってるんだろう? いわゆる普通の映像の作り方をベースに考えると、まったく作り方の想像がつかないですよね。

森脇
では次は自分がいきます。確か私がWOWに入社して2年目ぐらいだったと思うんですけれど、その時自分が考えていたモーショングラフィックスとVFXの中間ぐらいの領域、その領域のど真ん中にポンとこの映像がはまりました。
 


 

中間
おお、そうなんだ。自分もこの映像の中盤がすごい好きなんです。ゆっくりになるところなんか、すごく興奮します(笑
 

一同
(笑)
 

森脇
この映像を見てからVFXとかモーショングラフィックスといったジャンルを分けて考えなくなりました。自分の頭の中にあった境界を超えさせてくれた作品だったのかもしれません。この映像は最初は何が起きているのかよく分からないですよね。見続けていくと段々何が起きているのかが分かってきて、何回も見返すことによって、ようやく面白さが分かる。そんなところもとても大好きで、今でも定期的に見ている映像の一つです。
 

鹿野
これは実写がベースでCGが使われているのかな?
 

中間
いや、これはCGは使われていないですね。実写だけの合成です。よく見ると合成がうまくいっていないところが一杯あります。後ろの方がずれていたりとか。確かメイキング映像もあって、ミシェル・ゴンドリーがキッチンかなんかで映像の指示を出している。
 

森脇
結構アナログというか、実写の切り貼りを駆使して、力技で作られている映像ですね。もう12〜3年ぐらい前の古い映像ですから画質も悪いですし。
 

北畠
いや〜久しぶりに見ましたが、久しぶりに見ると面白いですね。やっぱり。
 


 

中間
次は私の選んだ映像です。ちょっとセレクト間違えちゃったかもしれません(笑)。この映像はフランス人の男性と女性のユニットによる作品です。アメリカ的でない、とてもヨーロッパっぽいテイストが好きなんです。さっきのミシェル・ゴンドリーもそうでしたけど、音と映像のリンクがきっちりしていて気持ちがいい。あと、一番最後の展開が好きでたまらない。
 

中路
この映像は同じパターンで展開していくから、途中で飽きずに作るのが難しそうですね。最後までやり切る持続力が必要というか。
 

北畠
これはフラクタル的な構造なんですかね?
 

中間
そうですね。どんどん奥があるみたいな感じ。あ、今急に展開変わったね。
 

柴田
今も変わりましたね。
 

北畠
皆さん完全に仕事モードで見てますよね(笑)
 

鹿野
あれ?最後にとんでもない急展開しちゃいましたね?なんだこれ〜?
 

中間
そうなんですよ。で、これで終わっちゃうという。この全部積み上げて最後にばーんとちゃぶ台を返す感じが、もう最高。初めて見たときびっくりして。モザイクのかかったおじさんが踊りだすっていうのも、もうわけわかんない。最初に見た時にすごい衝撃を受けました。今まで何だったんだ!みたいな。そういうところが好きです。
 

工藤
中間さんがこういう映像をセレクトするのって意外ですよね(笑)
 


 

柴田
次は私の番ですかね。最近だと表現自体にはあまり関心がなくなってきていまして、作っているプロセスとか、偶然生まれる何か、みたいな直接映像と関係のないところに興味があるんです。エラーやグリッチのような、いわば現象のようなものといってもいいかもしれません。たとえばパソコンで言ったらデータモッシングのような。カニエ・ウェストのPVで画面がグチャッとなってしまうような表現がありますよね。あと、ちょっと話は離れるかもしれませんが、他のスタッフにアニメーションをお願いしたりすると、自分の想像とは違ったものが出来上がったりするような…。そういった自分の手から離れたところで起こってしまった表現に強い関心があります。
 

中間
WOWの表現のスタイルって、意外とそういう側面がありますよね。自分はもともと他のプロダクションで映像作っていたから分かるのですが、表現は各デザイナーに任されている。管理されすぎていないというか、ゆるく感覚的に作っている印象があります。放任 といったら言い過ぎかな(笑)。 偶然性がプロセスの中に確保されている感じ。
 

中路
でも仕事の殆どは、逸脱できないというか、縛りのある中で作っていかなくてはならないよね? 実際のところ偶然性とか現象的なことはあまり取り入れられない。だから逆に偶然性の高いものに憧れるってことかな?
 

柴田
例えば実写の映像だと、思い通りに動かすことがほぼ不可能になりますよね。たとえばその場で演者が起こした表情とか、その瞬間を切り取って使うしかないですよね。狙っていては撮れない良いショットとか。CGでもそういった状況がたまに発生しますよね。試行錯誤している途中で、すごくよい表現が生まれたり。例えば使っているCGソフトのバグのようなものも表現につながったり。
 

中間
確かに、あまりカチカチに縛りを作らないというのは表現にとっても、表現するデザイナーにとってもよいことだと思いますよ。偶然性を寛容する制作環境であれば、デザイナー自身からも提案が出てくるようになる。
 

(Vol. 2につづく)

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