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モーショングラフィックス座談会後記 Vol. 2

Prototype

選抜した10案の検証を経て、クオリティの高い作品を完成させるため、今まで培ってきた技術を生かした「映像表現」に立ち戻ります。改めて、中路・森脇・工藤を中心メンバーに据え、検証結果を踏まえた新しい企画を考案していきます。座談会後記 Vol.2 では前回に引き続き、プロトタイプの映像や資料、試行錯誤の模様をお伝えします。
 

ヘッドマウントディスプレイと時間

ヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)を使って何ができるかを考えたとき、キーワードになったのは「時間」でした。「時間」を切り取った世界をHMDで見てみるとどうなるか…?例えば夜景を撮影する際、シャッタースピードを速くすると、車のライトなどの動く光は点になり、逆にシャッタースピードを遅くすると、光は流れる線になります。光や雪が静止する世界の中を歩く様子を想像し、表現方法を模索。しかし、高解像度のリアルな画を現在のデバイスで再現するのは困難だということ、一作品目として発表するには内容が分かりづらいなど、さまざまな要因から断念しました。
「目に見える世の中を、HMDを通して視点を変え、新たな体験をしよう」という意識が強く、再考したアイデアは花火や水しぶきなど、現象的なものが多く挙がりました。面白くなる確信がある一方、「作品として成立するのだろうか」という懸念が残ります。「一つひとつのアイデアは面白い。それらを繋げて、一つの作品に完成させるためにはどうすればいいのだろう?」と、中心メンバーが新たな企画を持ち寄ることになりました。
 

ストーリーの必要性

新たに企画を持ち寄り、議論を重ねることにより、「あらゆるアイデアを繋げ、一つの作品を完成させるにはストーリーが必要不可欠」という結論に至ります。そこで、中路がストーリー性を軸にしたコンテ制作に着手。同時に、CGで作られた世界にHMDで入り込むことで、一番VRの世界を効果的に感じられるのはファンタジーであるという考察のもと、ファンタジー要素もコンテに織り込みました。これを期に、アイデア単体ではなく、ストーリーを軸にした作品へと大きく方向転換しました。
 

中路のコンテをベースにアイデアを肉付けし、第一弾のコンテが完成します。テーマは「浮遊感」。日常的な部屋から始まり、部屋が傾くと無重力空間に変化。部屋中の物が空中に放り出され、宇宙へと移動します。宇宙ステーションから上下にビル群がある異世界に移動し、ビルの屋上に着地。他にも海や遊園地などが展開され、最終的には最初の部屋に戻ってきます。しかし、ストーリーの必要性は確信に繋がったものの、テーマを意識して演出した「浮遊感」が酔う原因となり、不快にさせてしまう問題が残りました。
 

カメラを固定する決断

「浮遊感」は「酔い」とのバランスが難しいと判明し、工藤を筆頭にした仙台チームは、二本のテスト映像を制作しました。
 

一つは上下に街があり、カメラがぐるぐると回転する作品。空を飛ぶ気持ち良さと、軸が歪んだ異空間で、どこにいるか分からなくなる感覚が面白いのでは、と仮定して制作。しかし、実際は目線誘導がないカメラの回転はかなりの気持ち悪さを与え、スピードをいかに遅く改良しても気持ちが悪く、「回転させること」が酔う原因に直結していることが明らかになりました。本映像をきっかけに「回転させない」という大きな決断を下しました。
 

もう一本のテスト映像では、「飛ぶ表現」「カメラを回転させない」「スピードを遅くする」などにトライし、問題点が改善されるのかを検証しました。ビルの谷間を鳥と飛んで行く感覚と、広い空間から狭い隙間へ視野が狭まる体感が心地良い映像。WOWにとって「カメラを直進させるだけ」という単純な動きは、今までにない試みとなりました。しかし、それ以上に「回転させないこと=酔いの原因を少しでも避けること」が最重要と考え、カメラを固定。目線は自由に動かせますが、飛ぶ方向は自分でコントロールできません。最小限に抑えたアニメーションなので、表現に刺激が足りないと感じるかもしれませんが、全天球(360度)映像で酔ってしまう人は必ず存在します。刺激の強い作品より、酔いやすい人でも楽しんでもらえるコンテンツにすることを目標の一つに定め、酔わない映像の作り方を試行錯誤しました。
 

当初作成した映像は、ただビルの中を直進するのみ。テストしていく中で、鳥や風船を追加したところ、没入感や空間感が増加しました。実際にHMDで体験すると、鳥と共に空を飛ぶ感覚が得られます。HMDでどのように見えるかは、PC上ではシミュレーションができないため、大まかに制作した後、HMDで確認し微調整を繰り返しました。また、VRでは直進しながら上がったり下がったりするアニメーションが効果的だということ、前後に移動するスピード感や高所の体感が分かりやすいことも新たに判明しました。
 

暗闇を背景にするメリット

物語の方向性が決定し、ブラッシュアップしたコンテを作成。Vol.1で先述した通り、全天球映像では、目線を誘導させることが必要不可欠。その方法として、霧のように何も見えない状態から物体を出現させることで注意を引き、視線を誘導できるのではないかと仮説を立てました。また、暗闇でも同様の効果が得られると考え、プラネタリウムで全天球映像を上映した事例を参考に、宇宙を意識したストーリーを採用。同時に全天球映像のレンダリングは、通常よりも6倍の時間を要しますが、背景を黒にすることで情報量が減少し、時間の短縮にも繋がりました。
 

(座談会後記 Vol. 3につづく)

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