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モーショングラフィックス座談会後記 Vol. 1

Prototype

熱い議論を交わした座談会を終え、多数のアイデアから10案を選抜。発案者を中心としたチームに分かれ、プロトタイプの制作を開始。実現可能か、面白いコンテンツになり得るか、検証を実施しました。座談会後記では、プロトタイプの映像や資料、試行錯誤の模様をお伝えします。
 

モチーフは、歴史的な映像作品『Powers of ten』

まず、モーショングラフィックス座談会 Vol.4 でも話題になった、チャールズ & レイ・イームズ夫妻による短編映画『Powers of ten』をモチーフにしたアイデア「トラックバック/アップ映像」。『Powers of ten』は、公園でピクニックをしている男女を真上から撮影し、だんだんとカメラが上昇。遥か宇宙のマクロの世界に到達した後、逆方向にカメラが下降し、男性の体細胞のミクロの世界へ入っていく、歴史的な映像作品です。
 


 

本アイデアは『Powers of ten』同様、カメラが一軸で引いたり、寄ったりする表現にアレンジを追加。ビル群から空に上がり、地面まで落ちていくと地面を通過し、天地が逆になった別世界に到達。地面から空を目指して下降し、地面に向かって上昇後、再び元の世界に戻ります。このアイデアから得られたことは三つ。
 

・ 一軸で真っ直ぐ進んだり、上がったりする表現の気持ち良さ。

・ 狭い所を抜け、広い所に行く(またその逆)際に感じられる没入感。

・ ある空間を抜けると、別世界が存在する考え方。
 

日本画の平面世界を駆け抜けた、従来の映像表現


 

次に、東海道五十三次の街道を彷彿とさせる日本画の世界を、さっそうと駆け抜けていく作品「Nihonga」。二次元の平面的なグラフィックを立体的な空間に再構築。奥行きのある平面世界を飛んでいく没入感は、全天球(360度)映像だからこそ得られたものでした。あまりにもシンプルな構造をしていたため、当初は面白いコンテンツになり得るか確信がないまま制作しましたが、予想に反して結果は良好。「意外に面白かった」など、発展が期待できるポジティブな意見が多く挙がりました。 「リアルタイムに同期させる作品」「実験的な作品」「音の作品」など、どのアイデアを選択するか悩んでいたさなか。本アイデアをきっかけに、「今まで培ってきた経験を生かし、映像表現で勝負する」新たな手応えを掴みました。このアイデアから得られたことは三つ。
 

・「奥行きがある空間を飛ぶ」という少ない情報だけでも、没入感が得られた。

・パーティクルの葉も、立体的に感じられた。

・平面的なグラフィックは培ってきた技術を生かしやすいため、従来通り制作すればクオリティの高い作品に仕上がる可能性が高い。
 
 

大きく立ちはだかる「酔う」問題

プロトタイプを制作したことで多くの学びを得ましたが、Oculus(オキュラス)などのヘッドマウントディスプレイで鑑賞すると酔ってしまう、避けられない問題が発生。原因として考えられたことは三つありました。
 

・映像が進むスピードの速さ。

・意図していない方向に映像が進んだり、回転したり、日常生活では体験しないカメラの動き。

・FPSが低いため、Oculusを動かすと、見ている映像にタイムラグが生じる。
 

まず、スピードについて。通常と同じ考え方で作った映像では、カメラの動くスピードが速すぎて視認が追いつかないことが判明。また、16:9の映像は、角度だと約110度の情報のみ。視野を360度に広げると情報量は3倍に増加し、どこを見るかは人によってさまざまです。例えば、エキストラの人物がビルの中を歩くシーン。通常、人物の存在を認識できないほどのスピードで通り過ぎるため、視聴者の多くが人物を見過ごします。しかし、全天球映像ではスピードを遅くさせる必要があるため、人物を注視する可能性が高くなります。どこを見られても欠点がないよう配慮し、重要でないシーンは必要以上に遅くせず、特に注目して欲しい場面ではゆっくりさせるなど、目的に合わせてメリハリを付け、視点を誘導することが重要になります。 心地良く鑑賞できるよう視点をコントロールすると、レンダリングの時間は大きく変化します。その違いは通常の映像と比べ、およそ3倍。上下を含むと6倍。立体視する場合は、さらに2倍の12倍になります。膨大な時間を費やすことからも、長尺の作品は業界全体的にまだまだ少ないと考えられます。
 


 

最後にカメラの動きに関して。意図していない、もしくは予測していない動きをされると気分が悪くなることがあります。例えば、こちらのアイデア『異次元空間』。海が横ではなく縦に広がり、水面から飛び出たドアの前に一人の男性が立っている、という異様な光景。カメラが横に一回転し、元の位置に戻ります。表現したかった異次元世界は没入感が増したものの、現実での体感とギャップが大きく感じられ、酔いやすさが増加。「酔う」という生理現象は、改めてデリケートな問題であるということを再認識させられました。
 

意図していない方向に動いても、あまり酔わないものとして、アトラクションのジェットコースターが挙げられます。これは目の前にレールが見えるため、進む方向が自ずと予測できるから。全天球映像でも同じ原理を用い、カメラの行き先を明確にし、視点を誘導させることで酔う問題を軽減。またアクションが発生する際、物体が光ったり、カメラを停止させたり、何かの始まりを予感させる動きで視点を誘導することにしました。このような動作を積極的に取り入れることにより、酔いや疲労感を解消します。
 

上記に加え、選抜した10案から学んだことがもう一つあります。それは、個々のアイデアは面白いけれど「一般公開するには長編、もしくはストーリーに落とし込む必要がある」ということでした。「培ってきた技術を生かしやすい平面的なグラフィックであれば、従来通りクオリティの高い作品の完成が望めるだろう」という手応えのもと、第一弾はムービーベースのアニメーションに決定。カメラは決められた動きをし、視点を動かせば見たい方向を選択できるため、インタラクティブ要素が50%。残り50%は、決められたレールを走る印象になります。
 

(座談会後記 Vol. 2につづく)

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