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モーショングラフィックス座談会後記 Vol. 3
Tokyo Light Odyssey
企画の立案から始動し、一年にも渡るプロセスをお伝えしてきた「Beyond Motion Graphics」プロジェクトは、ひとつの集大成となる作品を完成しました。タイトルは『Tokyo Light Odyssey』。東京の夜の街並みや、東京タワーなどの象徴的なシーンが登場し、自らの体が丸ごとその世界に飛び込み、夜の東京を冒険する全天球型モーショングラフィックスです。今回で最終回となる座談会後記Vol.3では、ドーム型スクリーンの投影テストや展示風景の模様をお届けします。
プラネタリウムでの投影テスト
HMDのみの展示では、鑑賞できる人数が制限されるため、より多くの人に体験してもらえるよう、直径6メートルのドーム型スクリーンを設置しています。同じ映像でも視聴環境によって見え方が異なるため、双方の違いを楽しんでもらうよう意図しています。ドームで展示するにあたり、投影テストを常設のプラネタリウムで実施。ブラッシュアップする点の洗い出しを行いました。ドームとHMDの大きな違いは、体験者が視野を移動できるか否かにあります。視野の移動ができないドームでは、没入感がより感じられるカメラワークと演出を重点的に検証しました。例えば電車のシーンでは、後半にかけてカメラが加速し、車内を駆け抜けます。電車=宇宙船が遥か上空の宇宙へ飛び出す感覚を意識し、電車のシーンから惑星のシーンへ切り替えました。また、東京タワーが登場するシーンでは、本来正面から東京タワーが迫ってくるところを、下からせり上がってくる感覚におもしろさを感じ、消失点を下に変更するなど、シーンの特徴に合わせて調整を重ねました。他にも、ドームで鑑賞した場合のテンポ感の違いから、尺の長さを調整。惑星のシーンではカメラの回転を取り入れ、ダイナミックな演出を目指しました。「回転」を頻繁に使用すると、酔う可能性が高まりますが、クライマックスであること、そしてわずかな時間だけに使用することを条件に、酔わないよう配慮して取り入れました。
直径6メートル、ドーム型スクリーンでの試写
プラネタリウムでの試写を終え、改善点をブラッシュアップ。ICCにドーム型スクリーンを設置し、実環境での投影テストを実施しました。しかし、スクリーンの大きさや展示環境が異なるため、見え方に大きな変化がありました。一つは視聴位置です。プラネタリウムで視聴する際は、視聴する位置が座席で決まっていますが、ICCでは床に寝転んだり、クッションに座ったり、入り口付近で立ち見をしたりと、視聴する場所によって人の目線の高さはさまざまです。特にこのような展示では、入り口で立ち見する人の方が多いと予想されたため、入り口付近が優先的に見やすくなるよう、消失点を下げるなどの調整を行いました。二つ目は、プロジェクターの性能の相違でした。映像の肝であるコントラストと明るさが異なるため、明るいコントラストを付け、ビビットになるよう彩度を上げて調整しました。
傍観する作品から体感する作品への発展
WOWの過去作品には、『Tokyo Light Odyssey』同様、東京の夜をテーマにした作品があります。2008年のミラノサローネで開催された「Tokyo Wonder」のために制作し、東京の持つパワーや美しさ、儚さを理屈ではなく、見て感じてもらうことを表現した『Lights and Shadows』です。「視界いっぱいに東京の夜を堪能してもらうこと」を目指し、プロジェクター以外の光を一切遮断した暗闇の空間で、8メートルの超横長スクリーンに投影しました。当時と比較すると、現在の映像技術は大きく発展。HMDやVRゲーム機が一般販売され、それらを使用することで仮想的な世界は現実味を帯び、より身近な存在になりました。「自分たちが制作した作品の中に入ってみたい」という好奇心から、「観客として傍観する東京の夜(Lights and Shadows)」を「主人公として体感する東京の夜(Tokyo Light Odyssey)」に発展させたものが本作になります。
「Beyond Motion Graphics」プロジェクトはまだまだ研究途中で、『Tokyo Light Odyssey』はその大きなプロジェクトの一作品。オリジナルの全天球作品という初めての試みは、各々のデザイナーの経験値を上げ、次作へのポテンシャルを高めました。また、座談会で断念したアイデアは新しい可能性として残り、これから枝分かれして成長させていきます。今後の挑戦も、引き続きwowlabでお届けします。まずはICCにて、VR表現の新たな可能性を探求する360°映像『Tokyo Light Odyssey』をご体験ください。
作品概要
夜のとばりに包まれた高層ビルの光、街頭のネオン、電車や道行く車のヘッドライトから家々 が湛える暮らしの灯りまで、暗闇から現れる星屑のような街の断片を浮遊しながら、東京という都市の新たなビジョンへと至る、全天球型のモーションクグラフィックスを5分間に凝縮。視聴環境は、HMD装着による全天球映像体験と、直径6メートルのドーム型スクリーンに投影された映像を見上げて鑑賞するインスタレーション作品の2パターンで体験可能。
End