Study

メタバース研究座談会 Vol.2 ゲーム&時空間デザイン篇

参加メンバー

Producer 安斉史人 / Visual Designer 金原朋哉 / Director 大賀頌太 / UI Designer 門田優(オンライン参加)

 

オンラインゲーム上で音楽ライブが開催されたり、ファッションブランドがアバター用アイテムを発表し、NFTでバーチャル空間上の土地が売買されたりと、さまざまな分野で注目を集める「メタバース」。まだ明確な定義はなく、主に3DCGによるインターネット上の仮想空間を指して使われる言葉ですが、果たしてその実態とは。そして、どんな可能性があるのでしょうか?

 

この潮流をより深く知るために、WOWメンバーによる座談会を異なるテーマのもとに2回実施。音楽配信やスポーツなどの体験デザインにフォーカスしたVol.1に続いて、ゲーム内世界やVR上の建築設計など、今回は時空間の視点からメタバースの行方を探求していきます。

 

移動方法、時間の表現……メタバース独自のUXとは

 

——WOWメンバーのさまざまな視点から、メタバースを巡る状況と可能性を考える座談会。今回はUXにつながる空間や建築デザインなどを切り口に、お話をうかがいたいと思います。まずは一人ずつ、メタバースの注目事例や興味事項をお願いします。

 

安斉
今日の顔ぶれのうち僕と門田は、コロナ禍でリアル開催ができなくなった展示会をバーチャルで開催する案件に空間やUI作りで携わっています。そのなかで気になった点を大きく3つ、挙げてみました。

 

一つ目は、メタバース内の移動方法。例えば、大賀はゲームのオープンワールドを歩き回るのが好きで非日常の世界観を楽しんでいる。でも金原や僕は歩くのが面倒くさくて、重力を無視して空を飛ぶとか瞬間移動とか、メタバースならではの新しい方法があるんじゃないかと考えています。

 

二つ目は、空間演出の可能性。建築がバックグラウンドの視点からすると、現実世界の模倣だけでなく、メタバースならではの空間構成ができるはずだと思います。隈研吾が設計を手がけた角川ドワンゴ学園 N高等学校のVR校舎「学びの塔」もその一例ですが、より新しい空間体験を追求してみたい。現実世界では建築は作れても時間の動きは制御できませんが、メタバースでは形だけでなく時間軸もデザインしないといけない。そして、こうした時空間のデザインこそWOWの得意分野だと思います。

 

 

例えば、NFTとして初めて売れた仮想空間上の住宅作品『Mars House』。時間の変化もちゃんとデザインされていて、しかも仮想上の空間を売ることができるという点が面白いと思いました。

 

 

3点目は、メタバース空間のわかりやすさについて。初めてアクセスする人が迷わないようにする方法として、現時点では位置の指標となる構造物を設けるのがベストな解とされています。いわば、ディズニーランドにおけるシンデレラ城ですね。自分が携わっている案件でも、アメリカの都市計画家であるケヴィン・リンチが提唱したランドマークやディストリクト(地域)などの古典的な構成要素を引用しましたが、よりメタバースに特化した都市計画が必要だと感じています。

 

金原
僕はメタバースに対して、同じ空間を通して意識を共有できることがメリットだと考えています。今はまだオンラインでミーティングしていても、共有しているのは画面だけ。特にデザインの修正は言葉では伝わりにくく、相手の言葉を主観的に解釈して修正するしかない状態です。でもみんなが同じ空間にいれば、共有できる情報が格段に増えてコミュニケーションがシンプルになる。3Dモデルを目の前に出してチェックしてもらえたり、「ここをこうしてほしい」という意見を汲み取るのも楽になるはず。こうした空間をどこからでも共有できることがメタバースの強みだと思います。
あと個人的に世界観の凝ったゲームが好きなので、緻密に作り込まれた別世界に立ってみたい。今のゲームのようにモニター越しだと世界観に集中しづらいので、ゲームの世界へ完全に入り込んで建築や空間の広がりを体験してみたいです。

 

安斉
確かに、今のVRゲームはHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を着ける必要があってハードルが高い。でも大賀は確か、『バイオハザード』シリーズのVR版をプレイしてたよね?

 

大賀
『バイオハザード』はホラーゲームなので、より強い恐怖体験をしたいと思ってVRでやってみたんですが、VRでないと得られない体験がありましたね。普通のゲームだとコントローラーの操作で後ろを振り向くのに対して、VRでは自分で動かないとゲームが進行しないから、よりリアルに“振り向いたらそこにいる”という演出を実感できました。でもそれ以外にどれだけVR特有の体験があったかというと、そんなには感じられなかったかな。

 

“現実 × 仮想空間”の融合のあり方を考える

 

——まだ明確な定義のない「メタバース」という言葉ですが、VRとの違いはどこにあるのでしょう?

 

大賀
メタバースではないけれど、よみうりランドの奥の森を実際に歩き回って『ポケモン』を探すというネイチャーアドベンチャーアトラクション「Pokémon WONDER」が昨年公開されて、元々はゲームだった『ポケットモンスター』がこうしてアナログな展開になり、今後もっとデジタルとアナログの要素が混じっていけばメタバースっぽくなりそうだなと思いました。

 

 

門田
僕は、メタバースを体験するためのデバイスや技術に興味があります。今は大きなHMDやスマホ、PCで見る形ですが、今後は身に着けていることが気にならないサイズになっていくのかなと。具体的にはスマートコンタクトレンズ『Mojo Lens』や、将来的にはイーロン・マスクが設立した『ニューラリンク』のように脳とコンピュータを直結する時代が来るかもしれません。
あとリアルさの話をすると、今はモニターにしてもVRにしてもほとんどは視覚と聴覚が対象ですが、五感の他の感覚の再現も必要になってくると思います。超音波を用いて触覚をバーチャルに再現するデバイス『Emerge wave-1』のような例もありますし、メタバース内の移動についても、歩き回りたい人向けにルームランナー型デバイスが研究されています。移動の仕方については、実用か、楽しむための方法かによって変わってくるかもしれません。バーチャル会議室に行くなら一瞬で行ける方がいいと思うし、登っていく過程を楽しみたいなら歩いていけばいい。

 

安斉
確かに、移動の仕方はいろいろあってもいいと思う。山や建物の頂上に行くとして、歩きで登りたい人と瞬間移動したい人の両方がいるはずだから。それとはまったく別の見方で、現実世界の空間の概念のように現在地と目的地を線で結ぶのではなく、どちらも同じ点で入れ替わったり、時間を制御した4次元空間独自の移動の仕方ができれば、人間の世界認識が大きく進化する気がします。

 

——例えば「街へ行く」と言った場合に、世代や趣味嗜好に応じて表示される風景が人ごとに違ってくる可能性もあります。現実の街にデジタルツインを重ねてARで表示することで、懐かしい風景にしたり最新のトレンドを反映したりもできる。そのぶん、制作作業は膨大なものになりますが……。

 

安斉
機械学習とかAIを駆使して作る必要があると思います。自動で現実世界をスキャンして生成させたり、見えるところだけ作る仕組みにしたり……。

 

金原
でもせっかく没入しているのに、ふとテレビの裏側を見てスカスカだったりしたら興醒めしない? そこはやっぱり作り込んでおかないと。それにオープンワールドにかかわらず、メタバース的なものは昔からあったと思う。プレイステーション3向けに『Play Station Home』という仮想空間サービスがあって、アバター同士で会話ができた。それが最初に面白いと感じた例かな。

 

 

大賀
一つの場所に何十人ものアバターが集まっているような状況は昔からあって、例えば『ラグナロクオンライン』なら一つのビュー上に100人以上入れたと思う。2Dグラフィックとはいえ、あの集まり方は良かった。逆に今、メタバースといわれている世界はあまり人がいないイメージがある。その上で、例えばこちらで話していても少し離れたところの話し声が聞こえてきたりとか、もっと空間としてカオスな感じがあってもいいと思う。

 

 

安斉
それは、より現実世界に近づけていくということかな。だとすると、先ほど門田が挙げていた触覚デバイスとかはその一つになるよね。

 

門田
今はまだまだですが、感覚ごとの細かい再現の積み重ねによってリアリティが出てくるのかなと思います。

 

“現実よりも現実” な表現が生み出す可能性

 

——その意味でいうと、今のところゲームの世界はルールが厳格ですよね。建物であれば壁抜けはできないし、決められた移動方法しか使えない。でもメタバース上では壁を抜けても自由なはずです。

 

安斉
作る側にすると「バグだと思われるから、ちゃんと壁にしてください」と言われそう(笑)。

 

大賀
いや、壁を抜ける時に何らかのエフェクトが入れば違う感じ方をするかもしれない。デジタルな世界観特有のエフェクトがあれば……。

 

金原
そうすると、重課金ユーザーだけが壁抜けできるようになるかも。どこまでいっても結局は現実的な話になる(笑)。

 

門田
僕は、現実と同じように重力があってリアルな世界もあれば、壁抜けもできる自由なルールが設定された世界まで、いろいろなメタバースがあっていいと思います。今はゲームやVRコンテンツが個別に存在していますが、全部が一つのプラットフォームでつながってマルチバースの概念になっていくと、今のVRとの違いが出てくるのかなと思いますね。
インターネットもGoogleやYouTube、Twitter、Facebookなど個別のサービスがあるけれど、すべてがインターネットの基盤の上に成り立っているわけです。基盤としてTCP/IPは非営利であり、政治や特定の会社の都合によって変わらない位置付けになっている。そうした仕組みがメタバースにもできてくると、状況が変わってくるかもしれません。

 

——最後に、今後取り組んでみたい仕事のアイデアや、実現したいイメージがあれば教えてください。

 

安斉
メタバース上でWOWが優位性を取っていきたい領域として「WOW Architects (仮) 」を構想しています。業務内容は、まず時空間のデザイン。空間に時間の表現を加えることで4次元の空間演出を手がけていきたい。モーションや光を使った空間演出にも興味があります。現実空間だと店舗やイベントブースのデザインは空間デザイナーやディスプレイ業者が手がけていますが、メタバース上なら現実では不可能な空間演出ができて面白いし、大きさも関係なく実現できる。
その上でWOWにはビジュアルデザインとテクノロジー、空間演出という3つの要素が揃っていて、その重なり合うところがまさにメタバースではないかと考えています。

 

——3D空間上の建造物や都市に興味があるという、金原さんのお話ともつながりますね。

 

金原
いや、僕の場合は作りたいというよりも、作り込まれた世界に立ってみたいということですね。僕だけかもしれないけれど、『DEATH STRANDING』をプレイしていて一瞬、風を感じることがあるんですよ。

 

 

安斉
おお、入り込んでるねえ(笑)。

 

金原
いや、本当なんですよ。草原を走っていて、草がこちらへ向かってくる様子とか音とかが超絶リアルに感じられる。視界が全部モニターで埋まるくらいの状態でプレイしたら、わかると思います。

 

門田
きっとクロスモーダル現象ですね。視覚と聴覚など、別々の知覚が影響し合うことで、脳が別の感覚を補完してくれる。ただし条件があって、過去に似た体験をしたことがある場合に限るそうです。だから、今まで草原を走って風を感じた記憶が脳の中にあって、それと似た音と景色があればその感覚が再現されるということじゃないでしょうか。僕自身はUIデザイナーなので、実際に手がけるとすればメタバース空間上のUIやインタラクションの設計になると思いますが、やはり前提としてリアルな体験につながるデバイスや環境が整ってほしいと思います。

 

安斉
限られた感覚でも、そんな体験ができるんだね。物理的に風を吹かす触覚デバイスではなく、ビジュアルと音の表現だけでそんな風に錯覚してもらえたら、クリエイティブ冥利に尽きるなあ。

 

金原
だからこそ、作り込んだビジュアルが大事だなと思いました。僕らも奥行きや空気感、迫ってくる感じなど、見ている人にリアルな感覚を感じてもらわないといけない。でもCG空間上でリアリティを表現するには、単なるフォトリアルではなく“現実よりも現実っぽく作る”手法が必要になってくる。光の照り返しを強くしたり、パースを強調して手前だけリアルにしたり……メタバースではそうしたディフォルメの手法を突き詰めていくことになるんだろうなと思います。

 

・・・

 

2回に分けてお送りしてきた、WOWメンバー有志によるメタバース研究座談会。世界内の物理法則や時間の流れ方に至るまで、ゼロから作り上げていく世界だけに、向かう先はまさに予見不可能。だからこそ、自分たちで構想していく姿勢が重要になる。ここで語られたアイデアが今後、どんなビジョンに結び付いていくのか? 引き続き注目していきたいと思います。

 

<Interview & Text : Keita Fukasawa>