メタデザイン思考 ー伝統と融和していくテクノロジーとツールー

2017年3月18日(土)〜22日(水)、せんだいメディアテークで開催する「ハレとケ展」にて、東北の伝統行事をモチーフとした新作体験型インスタレーション「BAKERU(ばける)」を公開します。人々はお面や装束を身に着けることで、豊作や無病息災をもたらす存在へと変身し、その土地の伝統として代々受け継がれてきました。「BAKERU」のモチーフとなった「なまはげ」「鹿踊(ししおどり)」「加勢鳥(かせどり)」「早乙女(さおとめ)」の他にも、数多くの伝統行事が東北地方に存在します。

前回お届けした宮城大学の演習授業レポート「伝統の再構成 ー デジタルファブリケーション」に引き続き、本授業を指導する宮城大学事業構想学部デザイン情報学科准教授・土岐謙次先生のインタビューをお届けします。授業と自身の経験を通して実感されている、ものづくり、道具、そして伝統と技術についてお話を伺いました。

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土岐謙次(ときけんじ)

漆造形家。宮城大学事業構想学部 デザイン情報学科 准教授。

1969年京都生まれ。95年に大学院在学中に京都の現代美術画廊を中心に作品発表活動を開始。伝統的な手法にとどまらず、先端素材やコンピューター、写真を用いて漆を使った作品を制作。漆の現代的な表現を模索している。 http://kenjitoki.tumblr.com/

ー今回WOWも参加させていただいた「メディアデザイン演習C」という授業では、オリジナルの伝統行事を考えることから始まりました。そしてそのストーリーに沿ったお面を粘土で造形し、ペーパークラフト化、それを手で組み立て、映像をプロジェクションするという、文化的な要素にアナログとデジタルの制作手法が入り混じった珍しい授業だと感じました。この授業について教えて下さい。

土岐謙次(以下、土岐) まず、宮城大学のデザイン情報学科についてお話します。多くの学生がデザインという名前の付いた学科に入ってきますが、「デザインをやるぞ!」という学生は、全体の10%ぐらいしか居ません。残りの半分は建築、もう半分は情報系で、システムエンジニアやIT系への就職を考えています。その中でもグラフィックデザインやプロダクトデザインをやってみたい、という学生は本当にごく少数。さらに高校生から好きでたまらなくて、大学まで進学した学生はもっと少ないのが現状です。

ー宮城大学は総合大学ということもあり、美術大学とは違った学生が在籍しているのですね。当然入学するまでの活動も異なってくると。

土岐 一方で、「ものづくりをやりたいか」と聞くと、みんな一斉に手を挙げるんです。自分の手で何かを作るって、楽しいですからね。特にワークショップのように、提供されたことを体験するだけならみんな楽しめるんです。でもそれを自分の技術や素養にして、社会に出ていく覚悟があるかというと、話はまた別なんだと思います。だからといって、できることに折り合いをつけて、学生に教えていくのは少し寂しいんですよね。やはりこちらはマックスの状態で、出せる内容を提供したいですし。もしかしたらハードルが高くて、自分には無理だと思われるかもしれませんが、それでも真面目に取り組まないといけないことを提供しよう、というのが一つの柱になっています。極端な話、ものづくりは好きだけれど、カッターもあまり使ったことがない学生も居ます。そういう人がコンピューターを使ってデザインしようとしているわけです。結局ものづくりって、材料と道具と人の関係なんだと思います。

ーなるほど。粘土もカッターも、コンピューターを使ったCADや映像制作というのも「道具」であると。

土岐 道具という意味で言うと、コンピューターでもカッターでも、なんでも道具になりますよね。例えばカッターを使うときにはコツや力加減、刃の調子が関係してきます。切れなくなってきたら、刃を折りますが、折り方もさまざまです。専用の道具を使ったり、慣れてきたら手で折ったり。道具を使い続けるなら、自分なりに仕立てていくことも必要になりますし、仕立てていくことで、さらに道具が馴染んで上手くなっていくでしょう。もう少し踏み込んで言うと、例えばかんなを使う機会があるとします。でもそのままの状態では使えないので、木を削った結果を見ながら道具を調整していく。作業の行為と結果、道具の調子を見るというのが、一つの連関の中で実になっていくんです。これは、コンピューターも同じ感覚だと思います。僕はプログラミングもやっています。書いたコードの結果を見て、自分の中にフィードバックがあり、さらにコードを直したり、コンピューターそのもののハードディスクやメモリなどをいじったり。まさに道具として調子を見る、といった行為があります。カッターやかんなはアナログで、コンピューターはデジタルなので別物に感じてしまうかもしれませんが、僕自身はどれも同じ感覚なんです。

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土岐 この演習授業では、とにかく体験してみないと分からないだろうと、粘土で造形を作ることから始めます。それを一旦デジタル化し、今度は紙に出力して触り、もう一度コンピューターに戻ってから、造形に映像を投影します。実際の材料と空間、自分の体験、コンピューターを行ったり来たりしながら、初めて出来上がってくるのがものづくりの総体です。今はどんな分野でもデジタル化がかなり進んでいますが、最終的に佇まいを整えるのは、人が介在しないとできません。それも途中から人が入ってきて、前後関係が分からずにやるのではなく、一連の流れを全て理解したうえで、初めてそれは発揮されるのです。さまざまなジャンルのデザインは上流から下流まで分業になり、それらが連なって一つの業態になっていると思います。どの部分の仕事をするにしても、前後に関わる仕事はもちろん、全体の中で自分はどんな役割なんだろう、ということを知るためにも、全体を理解するセンスは絶対必要になってきます。じゃあ今の世の中のものづくりの全体は何かというと、コンピューターもそうだし、実際のものづくり、素材、手の感覚。つまりこの授業でやろうとしていることはまさに、「まるごと全部やっちゃおう」ということなんです。

ー全部やるけれど、一つひとつの工程がちょっと苦労すればできるものが積み重なって、最終的にはどこかにたどり着く、そんな面白いカリキュラムだと思いました。プロセスとしても、グラフィックデザイン単体の授業などとは異なる雰囲気を感じます。

土岐 いわゆる美大や芸大の縦割りのプロダクトデザイン、グラフィックデザインという仕組みでカリキュラムを作ることは教員にとっては楽なんですよ。例えばプロダクトデザインなら1年生はデッサン、レンダリング、CADの入門編で表現や技術を磨きます。2年生では、スピードシェイプしようとスタイルフォームを削って、ピカピカに塗り上げ、プロトタイプを作る練習をします。さらにいまどきは3Dプリントもして、スキルを積み上げます。3年生になったら、例えば「車椅子を作ってみろ」といった具体的なテーマを与え、実践を繰り返すというのが典型だと思います。でも、僕らのデザイン情報学科メディアデザインコースには、いろいろな学生がいます。「レンダリングできるようになれ」と言っても、「私はプロダクトデザイナーにならないので」と、テンションの低い学生も大勢居る。そんな中、積み上げ式の技術をしっかり身につけさせる内容にはしにくいんです。だからopenFrameworkもやるし、デッサンも、CADも3Dプリンターもやる。いろいろやるけれど、どうしてもざっくりした内容にならざるを得ないんですよね。悪く言えば広く浅く、何かができる人が育ちます。それはいい面もあるし、だめな面もありますが、縦割りのプロダクトデザイン学科で育った学生を必要としないプロダクトデザイン会社が現在は結構あるそうですね。縦割りで育ってきた人は、造形力に優れているけれど、社会がどういう状態になっていて、以前とは何が変化して、今は何が求められているのか、そういった一段メタな思考で何かを作らないといけないとき、プロダクトデザインだけをやってきた人はどうしても物に落とし込もうとしてしまう。本当は物すらも必要ないかもしれないのに。そういった人材だけだともはや業務が成り立たないと聞きます。造形力やデザインを生み出す馬力は、ここの学生たちと他の美大生たちを比べると絶対に敵いません。でも課題の与え方は、広い話題から入っていくことが多いので「広い視野でどういう人が関わって、どういう社会の状況の中で、何を今生み出すべきか」といった話はできるので、視野が広くなっていると思います。お陰様でここ数年は、みなさんもよく知る企業のデザイナーとして、就職していく学生が増えてきています。

伝統技術とは何か?

ー扱っている素材が伝統のお面というところと、デジタルファブリケーションという新旧のコントラストがすごく利いているイメージがあります。なぜあえて伝統を選んだのか、そしてそれにはどういった意図が込められているんでしょうか?

土岐 やはり伝統は、僕自身のテーマでもあるんです。漆って、伝統工芸的な素材ですよね。僕が学生の頃からずっと考え続けているのは「伝統とは何か」。もし今タイムマシンが存在して、江戸時代にタイムスリップできるとします。今の漆の技術は、大体江戸の後期から明治の初期頃にぐんっと技術が上がり、ピークを迎えているんですよ。それはなぜかというと、輸出の需要、要するに輸出漆器が増えたんです。海外で東洋趣味の物がもてはやされた時期が、ちょうど19世紀頃。その中でも日本の漆芸は最高評価で、ものすごく価値があったんです。その輸出需要に合わせ、西洋の人たちが好むようなデザインに変えて、さらに技術を高めていった時期がありました。今、伝統技術といっている技術が、当時のさまざまな取り組み、新しい材料を取り入れ、ぐんぐんと成長していった時代です。もしそのタイミングに僕らがタイムスリップして、レーザーカッターや現代の道具を持っていけたとしたら、当時の人たちは「こんな物があるのか!?」と衝撃を受けて、絶対に使うと思うんですよね。それは木工ボンドとか、もっと手軽な道具でも。昔は木材の接着に、にかわや植物原料を使っていました。けれどそれを作るのも大変だし、安定的に使うのも難しかったので、もし存在していたら木工ボンドも重宝して使われるんだろうと思います。

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土岐 伝統技術の進化の速度は、時代によって早いときと遅いときがあります。現代は工芸的な面では、技術はすごくゆっくり進んでいます。特に日本は戦争もありましたから、戦前やそれまでの社会が作ってきた文化を戦後で線引きしています。それこそ戦前のものが伝統で、戦後のものは伝統に繋がっていないという意識があるため、そこに断絶があるんです。ヨーロッパなんかはそういった断絶がないので、単に古いだけでなく、古い物がだんだんアップデートされていきますよね。伝統はある地点から振り返ったその道筋が伝統と見えているだけで、その道で行われてきていることは、その時代の最新技術との葛藤なんだと思うんです。いいものは定着していくし、だめなものは歴史にも残らないまま消えていく。多分その瞬間にも新しい技術や素材、取り組みとの格闘の痕跡みたいなものが伝統になって、いいものが残っていく。そうだとすれば、今の新しい技術を取り入れて、あれこれするのがあと50年か100年続く。今度はタイムマシンで100年先に行けたとしたら、今の時代を振り返ったときに、もう全てが古いねって感じるんでしょうね(笑)。

一同 (笑)。

土岐 伝統技術だからといって、どこかで線引きして別物だと思うのではなく、今の物だと認識する。今の技術と真正面から向き合って、そういった営みがあちらこちらで行われる。もちろん淘汰されるものもあるだろうし、逆にぎゅって芽が出るものもある。それは多分、未来から見たら伝統になるんだろうな、というのが僕自身のテーマでもあるし、スローガンでもあるんです。いろいろな分野で、それは起こっていると思います。ものを作る、何かを生み出すとき、技術にしても文化にしても、過去をリファレンスするのは必ず必要なことだし、そんな風に考えていけば、伝統に特別注目したいわけじゃないけれど、そこからしか始まらなかった、という自然な発想があるんですよね。

ーそれは先ほど先生が仰っていた、アナログの道具もデジタルな道具もわけ隔てなく扱いつつ、道具としてその軌道にあるものをアップデートする。そして伝統的なものに対しても道具に対しても、真正面から向き合った結果、未来の一歩進んだ表現というものができてくる。

土岐 そうですね。多分僕らが今一番考えないといけないのは、新しい技術を使って作られたものに対する審美眼だと思うんですよね。例えば建築の分野で「ロンシャン礼拝堂は美しい建築だ」と言った場合に異を唱える人はほとんど居ないと思いますし、落水荘の美しさにも一定の普遍的な理解があると思います。じゃあ「ザハの建築はどう?」と言われたときに、すごい好きかすごく嫌いか、みたいな議論に分かれてしまいますよね。そういう好き嫌いではなく、建築の一つの文脈の中であの造形が、例えば代々木体育館に類する美しさなのか、それとも全く別の次元の新しい美しさなのか、という美しさの在りようを議論する必要があると思います。デジタル時代の美意識というのがどういう美意識なのか、その議論をしないといけないフェーズに入ってきていると思うんですよね。本当に美しいのかどうか審美的な話をするには、道具や技術が先行するのではなく、クリエイティビティが先行して、表現だけが評価できる対象になるぐらい、道具や技術が消えるほどに使いこなせないとだめだと思うんです。作品を見るときに、「これはプロジェクションマッピングだな」とか、まだまだ技術は消えていない感じがしますよね。まさに審美的な評価をする時代にこれから入っていくと思いますが、本当に意味のある議論をするときに技術に拘泥していたのでは、審美的な評価には辿り着かないんじゃないかと思います。

ワークショップに込められた狙い

ーワークショップ「ペーパークラフトでお面をつくろう!」を開催しましたが、演習授業が凝縮された内容でしたね。どんな想いが伝わったらいいな、などのビジョンはありましたか?

土岐 去年この課題を始めたきっかけは、青森県のねぶた祭りで使われている竹ひごが、ワイヤーフレームみたいだなって思ったことなんですよ。今回もローポリゴンになったなまはげがモチーフになっているので、それを作ることで、そんな発見に繋がってくれればいいなと思っていました。デジタルで用意された技術と、それで完成した造形が、昔から見たことのある物だと感じてもらいたいですね。今はいろいろな道具で再現できるようになっているだけで、昔の人たちもデジタルに考えていたのではないだろうか、コンピューターが特別な道具ではなく、昔の人が考えていたことを、便利に再現できるようになっただけのことであって、考え方は別に変わっていないんだよ、ということにたどり着いてくれるとすごくいいなと思いますね。

ー伝統に新しいものを持ち込むと、伝統を軽視していると思われてしまったりする一方で、新しいものを持ち込むために、リスペクトをした上で真摯な向き合い方をされているんだと感じます。

土岐 多くの場合、新しい技術は今までの技術を持っている人から見れば、やっぱり脅威に見えると思います。自分たちの仕事が失くなるかもしれない、という不安もあるでしょう。何よりもその新しい技術が、どうなっているのかを知らないんですよね。「怖そう」「自分には使えないから無理」と、単純な排除心理はすごく感じます。「真摯に向き合う」というのは違う言い方をすれば、仕組みを紹介して、理解してもらう、という手続きが必要なんですよ。

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TOKITOKOLO(2016)

土岐 今、乾漆の板を作っているんですが、レーザー加工してパターンを彫り込んでいくんです。よくワークショップでやっているんですが、彫り込むだけじゃなく、細い線を引いて、その線に金箔を埋め込む沈金という伝統技術があります。伝統的には彫刻刀を作って、それで表面を彫っていきます。伝統工芸師の人たちは、その道の超スペシャリストなので、髪の毛のように細い線をシューっと引いて、そこを金箔で埋めていく。黒い漆塗りの表面に、綺麗な金の線がスッと入る。沈金の名の通りまさに溝に沈んでいる、そんな技術があるのですが、それと似たようなことがレーザーカッターでもできるんです。デジタルに作ったパターンを漆の表面に描いて、そこに金箔を埋める作品を作ったことがあります。東京でFabLabの人たちと「ワークショップでやってみましょう」と開催したら好評だったので、山口のYCAMでも開催しました。その際、本職の沈金職人の50代くらいの女性が「興味があるんです」と来てくださったんですよ。こちらとしては「ダメ出しされるんだろうな」と恐る恐るの気持ちでしたが、その方に体験してもらったら「これはすごい!最高ですね!」って、ものすごく感心してくれたんです。どういうことですかとお話を聞いたら「やっぱり細い線を1ミリとか0.5ミリとか、緻密に並べていくのはすごく大変で時間もかかるんです。でもレーザーなら、あっという間にやってくれる。」と。レーザーは高周波で発振しているので、肉眼では真っ直ぐな線でも、顕微鏡で見ると結構ギザギザしているんです。彼女もそれは見抜いていて、「伝統工芸にはこのまま使えないけれど、手作業だと金額が合わない、伝統工芸ではない仕事もたくさんあるので、そういうものはこれで十分です。彫刻刀でないとできない線は、最後に人がやればいい。すみ分けをすればレーザーは使えます。」と言ってくださったんです。これは彼女たちの仕事を奪って駆逐するという話ではなく、むしろ仕事の底上げになると言うのです。デジタルでできることは道具に任せて、そのお陰で空いた時間をより精密な仕事に向き合う余裕ができる。それはすごく正しい理解だと思うし、ポジティブな姿勢だと思うんですよね。「最新技術の限界はここまでです」と、正直に話して全部見てもらう。ちゃんと理解してもらえれば、意外とスムーズにいくんじゃないかなと思います。実はこういう機会は、大学以外ではなかなかありません。宮城大学では職人さんに来てもらって、授業をやっています。実際に今の技術を目の前で見てもらって、職人さんたちの感性と感覚で感じてもらうのが、一番大事なこと。こちちから持ち込んで「どうですか」ってやってしまうと、絶対にだめなんだと思います。そういう理想的な場になれるのって、多分大学しかないと思うんです。そしてそういう場に、これからもなればいいですね。もっと学生が来て、いろいろな技術を持った人と新しい機材と、そんな環境でものづくりができたらいいなと思っています。

「ハレとケ展」は、2017年3月22日(水)を持ちまして終了しました。

土岐謙次先生、そして宮城大学 C-IAMの皆さんには、インスタレーション「BAKERU」の展示会場に展示する大きいペーパークラフトのお面制作や、2017年3月20日(月祝)に開催されたワークショップ「ペーパークラフトでお面をつくろう!」にご協力いただきました。また、本文中にも登場した、FabLab SENDAI FLATの皆さんにもワークショップにご協力いただきました。

ご来場いただいた皆様、本展にご協力いただいた皆様、本当にありがとうございました。また皆様にお会いできることを、スタッフ一同楽しみにしております。