Smart Canvas WOW 工場と遊園地 レポート3 (全3回)

Smart Canvas では従来の時計とは異なり、ビジュアルから時を感じてもらうための表現に挑戦しています。デザインをはじめるにあたり、普段時計を身につけない人もターゲットに含めて考えるところからスタートしました。時刻を見るだけなら携帯電話で代用できるようになった今、時計には「時を知る」という本質的な役割以外の価値が求められてます。Smart Canvas はそれに答えられる製品だと感じたのです。
「工場と遊園地」はWOWが2009年に制作したオリジナル作品です。緻密な工場風景と空想世界のシーンがモノクロで描かれる映像インスタレーションとなっています。スクリーン前に置かれたプロダクトに空想の映像が影響したり、反対に鑑賞者の動作に呼応してスクリーンの映像が変化したりと、現実と空想がやわらかに交差する様が描かれます。Smart Canvas には影絵のビジュアルはもちろん、この交錯する考え方も採用しています。使う人と製品との関係性によって成立するデザインを目指しました。
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コンテンツの時間表現は「時計台がある街」という設定を軸に、空想の世界を一日かけて移動していく、ストーリー性を盛り込んだものになっています。打ち合わせではこの設定を基に「この街の人たちは…」というお題から世界観を膨らませていきました。「朝はニワトリの鳴き声と共に街が目覚めはじめて…」「仕事に向かう人がいて…」「雨が降る日もあって…」と、こうして街の様子を表すキービジュアルがつくられていきました。そして、現実世界とリンクするような演出を模索しました。例えば、現実世界でも雨の時、工場と遊園地の街も雨が降っていたら? 偶然の一致ですが、そんな小さなシンクロが使用者にふとした驚きを与えてくれます。
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夕方になると街は少し引いた絵となり時計台は少し小さくなります。これは慌ただしく時が流れる日中から、夕方になって少しずつ時間から開放されていくという意味が込められています。これは従来の「時計」ではなくビジュアルから時を感じてもらうことができる、電子ペーパーならではの表現です。
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実際のデザイン作業では、絵巻物のような横長の街のグラフィックを制作しています。それを一定時間で横スクロールさせると、街の景色が刻々と変わるように見えます。実際の見映えを再現した映像を制作して、検証しながら進めていきました。そうすることで切りだされた各コマが不自然なものにならないよう配慮でき、時の流れをアニメーションとして確認できます。それを静止画で切り出すことで、まるでフィルムのコマのように、表示される各グラフィックが完成しました。こういった制作工程を経ることで、街の時の流れを途切れることなく移動していく表現が生まれました。
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正時になると、EPDパネルに描かれる物語中のラインが、バンドにデザインされたラインと一致します。バンドと物語がつながることで製品全体が一つのグラフィックとなり、画面から飛び出して工場と遊園地の世界が広がっていくような表現が可能となります。このように、デジタルと現実を行き来するような工夫が随所にちりばめられています。
一連のデザインを経て、今回のプロセスは映像表現を中核とするWOWらしいものだったということが改めて見えてきました。まずはじめに世界観があり、映像表現を用いてその中を動くことで全体的に一体感がありシームレスな表現ができる。これは2012年にWOWが広く関わったKDDIの“Smart TV Box”などでも見られる特徴です。
“Smart TV Box”のホームUIでは、UI空間を回遊するようにコンテンツを閲覧できます。シーン間を分断せず、自然なトランジションを設けてシームレスな移動が可能となっています。
電子ペーパーの表現は1分おきに切り替わるグラフィックです。制作中、この映像のようで映像ではない不思議な表現には違和感もありましたが、実際に使用してみると時刻を確認するのは一瞬であり、むしろ頻繁に動かないことで視認性が上がることや、ゆっくりと移り変わる背景によって時を感じられることのメリットが大きいことに気付きました。
映像表現を解体して連続したグラフィックをつくるという過程はチャレンジングでもあり、WOWの表現方法、セイコーエプソンの電子ペーパーというプラットフォームと技術が、また両社の協力関係によりうまく融合した作品となりました。